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城彰二さんとの経営者インタビュー第7弾

株式会社ウィンフィールドジャパン代表取締役の勝田健一社長と元サッカー日本代表の城彰二氏のふたりでお届けしている経営者インタビューもついに7回目。今回の舞台は、千葉市緑区にあるWFJエネルギー総合研究所で行われました。今回のトークテーマは「再生可能エネルギー」。サッカーワールドカップの話題から、ウィンフィールドジャパンの未来までを語り合います。

 

自家発電の最終目標は地域内での電力の確保

 

WFJエネルギー総合研究所は、千葉市の自然豊かな場所にありますが、いかがですか?

 

城彰二(以下城) 千葉は私もジェフユナイテッド市原(現ジェフユナイテッド市原・千葉)でデビューしていますし、この研究所の近くには今でもゴルフに来ます。そもそも、ここに研究所を置くキッカケはなんだったんですか?

勝田健一(以下勝田) ここは石井牧場という牧場で、研究所も築100年を超える納屋をリノベーションして使わせてもらっています。たまたま、ここを引き継がれる息子さんが、僕と同じ年だとかいろんなストーリーもありまして、楽しくやらせてもらっています。

 それには勝田社長の人柄もあるでしょうね。

勝田 いえいえ。ドイツのバイオマス発電の見学にいったときも、石井牧場さんと同じ牛を扱っていると思い出していました。日本全国に酪農家はあるんですが、なかなか大規模化ができず、苦しんでらっしゃいます。現在はエサ代も高騰していますし、なにより牛のウンチを捨てられなくなっています。産廃法ができて、ウンチを自分の畑に持って行くだけでも違法なんです。処分処理施設を作る手もありますが、そうすると商売上、合わなくなってくるんですね。それが日本の酪農の現状です。

 資金力のある大規模酪農は違うんでしょうけど、中小の酪農には、フンの処理やエサ代などの課題が出てくるんですね。

勝田 まさに家族経営の方たちは脱出できずに困っています。機械導入のお金は貸してくれますが、組織化ができないんです。すでに大規模化できるところはしているので、これらの小規模なところを集めていくとビジネスにつながるかもしれません。バイオマスはまだ時間がかかるので、第一歩としてスタートしたのが、石井牧場でも取り入れているソーラーパネルによる自家発電です。脱炭素、自家消費が目的です。全消費電力のだいたい3分の1から半分ほどは、ソーラーでまかなえています。それも利益になるのがうれしいですね。

 3〜4年ほど前からソーラーは、自家発電をして、余った分は売電というシステムができました。ただ家庭などで、実際にやっているところはどれぐらいあるんですか?

勝田 めちゃくちゃ少ないです。

 欧米などでは、かなり整備されている印象がありますが。どうでしょう。

勝田 そこにギャップがあるんですね。日本ではビジネスありき過ぎて浸透していません。私は、欧米・特にドイツで勉強させてもらい、イギリスにも会社があります。ヨーロッパは、キリスト教・教会で街が発展する文化なんです。そこには「お金儲け以外の良心があり、みんなに分け与える」という伝統が見え隠れするんですね。しかもソーラーであれば、30年間で割が合うというのも受け入れられやすいんです。日本の場合は、即効性のビジネスを求められるので「いらないものはいらない」となってしまうのだと思います。ただ日本でも徐々に増えてきてはいます。実は、僕はその次の段階が問題だと考えています。100%脱炭素や自家消費はできないです。技術的には可能でも、太陽光は、夜は電気が起きないですし、雨の日も安定しません。何かと組み合わせをしなきゃいけないんです。晴れてる日に貯めて、夜や雨の日に使う。第1弾の実験ではソーラーパネルですが、第2弾では、蓄電池を導入したいと考えています。また、電気自動車は運転しない時は家に置いておくだけではもったいないので、蓄電池替わりとして利用する、そんな使い方になっていきますよ。

 最終形はすべての電気を自家発電でまかなえる家ですか?

勝田 もうひとつ先に行きたいです。自分の電気を自分でまかなう。ただしその周りにもたくさん家がありますね。だから最終的には、365日24時間、止まらない電気を周りにも分け与えたいです。これをマイクログリッド(小規模電力網)といいます。例えば、ここ千葉市緑区で東京電力から来ている電気が停電になっても、この研究所とコミュニティーは自家発電でまかなっているから問題ないという状況ですね。これがコミュニティーとして一番強い状態です。マイクログリッドを目指すと電気代がものすごく安くなるかもしれません。それが電力自由化の一番の目的です。福島県の一部自治体やドイツの一部ではもうやり始めています。足りないときだけ東京電力などから電気を買えば問題ないんです。

 

日本のスタジアムにもソーラーパネルを

 

勝田 ちょっと質問いいですか。サッカーの興行は、ビジネスと絡んできますね。その中で、エネルギーも考えてみたいです。サッカービジネスの中で、エネルギーはどのように考えられているのでしょうか。

 大勢の観客が来るスタジアムは、照明、スクリーン、空調などいろんな電気が使われています。また、チケットレス化が進んでいて、スマホや顔認証になっています。スタジアムは、観客席やスタンドの上の屋根や壁にソーラーパネルをつけたりできると思います。でも、そういった発想がまだまだ少ないですね。

勝田 ここ6年〜7年、地域とタイアップして思ったのは、地域の自治体は、稼ぐことに関して疎いんですね。損得勘定がなくて、クリーンでいいと思いますが……。収益が生めないのはどうなんでしょう。本来は何か地域で収益を上げながらのサッカーや発電でいいと思います。

 僕は、2000年にヨーロッパ・スペインに移籍しました。そのときFCバルセロナのカンプノウスタジアムに試合じゃないときに遊びに行ったんです。キレイに整備された芝生がありました。そこにソーラーパネルに車輪がついたような移動式のモノがきたんですね。先からライトがパッと光っていましたね。「何これ?」って聞いたらソーラーを使って芝生を育てるためのものでした。それが、グラウンド一面に置いてありました。当時は2000年ですよ。芝がはげたところ、カットしすぎたところをその機械で伸ばしていたそうです。

勝田 今の話でしっくりきたのは、われわれもドイツで勉強し感じたことです。ヨーロッパの方が、日本より20年ぐらい意識が進んでいるんじゃないですかね。ドイツのブンデスリーガのチーム「TSG 1899 ホッフェンハイム」のスタジアムの駐車場には、出力1MWのメガソーラーがあるそうです。地域の繋がりが強いですよね。ドイツは食事のマクドナルドなどでもバイオマスで回っています。ということは、スタジアムの廃棄も全部回ってるはずで、流れができてるんです。そういうことが日本でできればいいですね。

 結局日本は、SDGsのキャンペーンを打ち出して、「再生利用しましょうね」なんて言うけど、具体的に何を進められたかですよね。

勝田 そこなんですよ。スタジアムには、何万人、何十万人来るじゃないですか。その数の力をどうにかしたいですよね。

 みんなの募金で「スタジアムに太陽光パネルを設置しましょう」もできますね。みんなで使える電気を作りましょう。スタジアムで使いましょうといろいろできるはずなんですけどね。

勝田 大きなスタジアムは、カーパークも大きいので、屋根付き駐車場は、すべてソーラーにするとかできますね。次の段階のエネルギー産業になるんじゃないかと思っています。また、スタジアムは災害のときには避難所になるなど、エネルギーを貯めるのは全然ありだと思うんですよね。

 日本のスタジアムは避難所になっていますが、この電力事情だと不安ですね。

勝田 ヨーロッパはサッカーを中心に街ができていますけど、そんな風になればいいんですけどね。

 僕が昔在籍したスペインのバリャドリードというチームでは、ホセ・ソリージャという古いスタジアムを使っていました。ここは、スペインの冷凍庫といわれ、雪も降って、寒いんです。でも、観客のためにソーラーを投入し、壁を温めるようにして熱を確保していました。電気代だと大変だけど、ソーラーにしてみんなに還元するという考え方は面白いですね。

 

勝田 洋服にもフレキシブルな材料を入れたら面白いですね。今、ペロブスカイト太陽電池という材料が注目されています。ソーラーは、現状シリコンのインゴットを薄く切って、そこで太陽光を浴びることによって発電します。でもペロブスカイト太陽電池なら曲げる、折る、塗ることもできます。スタジアムのイスに貼れるかもしれないし、プリントできるようになれば、ユニフォームに入れることもできます。

 そういう時代になってほしいですね。

 

新築戸建の太陽光パネル設置は全国に広がる可能性も

 

ひとつ議題を入れてもいいでしょうか。現在東京都の戸建に太陽光発電パネルの設置義務化が議論されています。勝田社長はどう思われますか?

 

勝田 賛否両論です。騒ぎ立てる人たちや小池百合子知事を批判や応援する人もいるでしょう。ただ、僕としては当たり前の通過点でしかないと思っています。もう2年前にはわかってました。なぜなら、カリフォルニアを見ればすぐわかります。カリフォルニアでは、2020年からすべての新築の家に太陽光パネルの設置を義務づけました。アメリカでできるなら日本でもヨーロッパでもできます。だから個人的にはあまり驚きはないです。去年、法改正されて、これからの国や自治体の新設の公共施設には原則ソーラーパネル設置が義務化されました。われわれも「本気で地域創生と仕掛け」を考えアピールしていくだけです。以前は海のものとも山のものともわからないエネルギービジネスの人がいましたが、現在は淘汰されています。

 この流れは全国に広がっていくんですか?

勝田 この義務化によって、東京を皮切りに、大きな都市から広がっていくんだと思います。ただ、風当たりが強ければ国も方針を変えるかもしれませんね。アメリカではフィラデルフィア、サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨークなどをサンクチュアリシティーと呼びます。このようなリベラル的な施策に敏感な都市で、新しいものを試して、いけそうなら、全米に広げるんです。日本も、例えば東京、大阪、名古屋と導入して、いけそうなら、広めるんじゃないですかね。ちなみに電気のコストは日本の値上がりは優しい方で、イギリスでは、1年間で3倍に値上がりしました。フランス、ドイツもほぼ3倍です。こうなると、電力会社から買い続けてもどうなるかわからないので、自宅にソーラーを置いて、回収することを考える人が増えています。

 日本でもそう考えないとだめな時代がきそうですね。

 

勝田 「エネルギーは国策なの? 自分たちなの?」という話は難しいですよね。僕は、国策を民主化して、自分たちで持つ。そのための電力自由化だと考えています。

 東京で電気を作ることを始めても、面積で行き詰まりますよね。それが地方ならより大きな土地、大きな値でできます。さきほど話のあった蓄電池の技術も使ってほしいです。将来的には、国策じゃなく、自分たちの問題になってくるんじゃないですか。

勝田 物事には、フェーズがありますよね。やっとこの1年ぐらいでフェーズが変わって、脱炭素を走ってきてます。ウィンフィールドジャパンのフェーズもそこで変わりました。というのも、取引先企業様の規模も大手企業がかなり増えました。なぜならば、大手企業が脱炭素を進めているからなんですよね。例えば、銀行系でビルをたくさん持っている会社は「そこで使う電気の脱炭素をしたい」と考えます。エネルギーを扱う会社でもウチの会社の力を借りて脱炭素を目指す方向性があります。将来的には、そういった企業などに蓄電池を置いていくフェーズになるかもしれないですね。

 なるほど。そういう流れで、会社が成長していってるんですね。

 

次なる目標は、メガパック(蓄電所)とJEPX市場予想

 

勝田 今から2点、「これから絶対来ること」を話します。来年の対談で検証をしてください。ひとつは蓄電所を作っていきたいです。蓄電所とは、メガパックといわれる電池だけの発電所です。規模でいうと1つの蓄電所で、テスラ1万台分を充電できるというものもすでに世界にはあります。それを置くことによって、再生可能エネルギーを導入すれば導入するほど役に立ちます。例えば、風力はいつ発電するかわかりません。太陽光も雨の日は発電しません。でも、これらは発電した瞬間にベース電源である火力発電所の火力を落とさなきゃいけないんですよ。現状は、太陽光が下がったときの火力アップを、天気予報を見ながら予測しています。だから、こんな感じの指示がきたときに困るんです。「急に曇ってきて、電気が足りないから50万kWぐらい火力発電所を上げておいて」。ただし火力発電所を立ち上げるには最低でも30分は時間がかかります。その間に電気が足りない。そのギャップのときに、地域に貯めている蓄電所から電気を放出すればいいんです。蓄電所があれば、安いときに電気を貯められます。それが日本全国で揃えば太陽光発電のフラクチュレーション(変動)は怖くないです。

 蓄電所というのは、そんなふうに役立つんですね。

勝田 これはもう実は実証されています。5、6年前、オーストラリア西部、パースの方にテスラがメガパック(蓄電所)を導入しました。この街はよく停電する街でした。停電は工業にも影響するので、経済的な被害もあります。このメガパックでギャップを埋めて、停電はなくなりました。さらに3年ほどで70億円の初期投資を回収したそうです。あとは日本で誰が、どこで、どのように、いつやるか。それがそろえばわが社でもいきます。

 なるほど。蓄電所以外のもうひとつの重要なものはなんでしょう。

勝田 もうひとつはJEPX(ジェイペックス)です。株の世界で東証などがありますね。電力自由化でやろうとしたことのひとつは、電気を市場に出して、お金に変えたかったんです。JEPXは、株式市場の電力バージョンです。

 環境問題も国じゃなく、自分たちという意識がほしいです。人は目先のことしか見ないし、その目先の結果ももちろん大事なんだけど、その先の何十年後に向けての結果もひとりひとり考えないといけませんね。今年のワールドカップは、初のカーボンニュートラルな大会を目指しています。二酸化炭素の排出量を可能な限り減らすそうです。私も、その実現と目標の周知のためにぜひ頑張りたいと思います。

勝田 城さんとの対談は本当に糧になっているので、毎年城さんにもらった言葉に見合うことをしたのだろうかと自問自答しています。がんばれるのも、後進も育ってきていますし、メンバ−のみなさんがいるからです。城さんと約束したので、これからも進んでいきますよ。

 

対談後、石井牧場を見学しながら「今はサッカーでも与えられたことはやるけど、それ以上のことをやらない子どもが増えている。それをどうマネジメントするかが課題ですね」と、サッカー指導者としての悩みを経営者である勝田社長に相談していた城彰二さん。組織を、人を率いていくパワーと人間力を感じさせるふたりだからこそ見える未来があるのでしょう。

『前心』心で前に進んでいく。城彰二さんからいただいた今年の言葉は胸に染みます。来年はビジネスもWFJエネルギー総合研究所ももっと発展しているはずです。この豊かな自然を変えず、クリーンなエネルギーを使えるようにするのがウィンフィールドジャパンの使命。草を食す牛たちののんびりとした姿を来年も眺めたいものです。

 

 

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